第1回では、AWSの特徴やメリットをオンプレミスの場合と比較しながら解説しました。今回は、AWS移行のメリットや移行の基礎知識についてお伝えします。

AWS移行のメリットとは


オンプレミスからクラウドサービスであるAWSへの移行で、利用者はどのようなメリットを得ることができるのでしょうか?ここでは、4つのメリットを紹介します。

(1)利用開始までの期間の短縮
オンプレミスの場合、サーバーの調達から構築まで、全て自分たちで行う必要があります。このため、利用開始までに長い期間が必要でした。
例えば、新たにサーバーを購入する場合、通常、発注から納品まで数週間以上かかります。また、サーバーが納品された後、データセンターへの設置、ネットワークの設定、OSやミドルウェアのインストールなど、利用できるまでに多くの労力と時間を要します。
現代では新しいビジネスを展開するにあたり、ITインフラは不可欠となっています。しかし、ITインフラの準備に長い期間を要しては、ビジネスの機会を逃しかねません。
AWSは利用申し込み後にインターネット経由で管理者画面を操作することで、わずか数分でITインフラを使用することができます。これにより、アプリケーションの開発もすぐに着手することができ、ビジネスの機会を逃すことなくタイムリーにシステム構築を行うことができます。

(2)リソースの柔軟な変更
オンプレミスの場合、ユーザー数、データ件数、処理件数など、将来のピーク件数を想定し、それに合わせてリソースを予め用意する必要があります。
しかし、ピーク件数に達しない場合、余ったリソースは余剰コストとなります。逆にリソースを想定以上に使用して足りなくなった場合、ハードウェアの増設等、リソースの追加には時間を要します。このため、リソース不足に陥った場合はビジネス機会の損失につながる可能性があります。
AWSの場合、管理者画面からクリックすることで、必要な時に必要なリソースを簡単に準備することが可能です。また、使用していないリソースを数クリックで減らすことも可能です。仮にキャンペーンなどによる突発的なピークが発生したとしても、自動的にリソースを増やすことが可能です。このように、AWSではリソースを柔軟に変更できるため、利用者は適切にリソース管理を行いながら、ビジネスを展開することができます。

(3)開発の効率化と属人化の排除
AWSではDevOpsプラクティスに基づいた開発ツールが提供されています。
DevOpsとは、テスト、デプロイ、リリースを自動化することで、アプリケーション開発の高速化を実現する開発手法です。
これらの作業を手動で行う場合、膨大な時間と労力が必要です。ところが、AWSでは、テスト、デプロイ、リリースなどの一連の作業を自動化することで効率的にアプリケーションの開発を行うことができます。また、自動化を行うことで、「この作業はあの人でないとできない」といった属人化をなくすことが可能となります。

(4)開発負荷と運用負荷の軽減
AWSでは「サーバーレス」を実現しています。サーバーレスとは、仮想サーバー(Amazon EC2)を使用せずにアプリケーションを開発する手法です。
AWSの場合、「Amazon S3」、「AWS Lambda」、「DynamDB」などを使用してアプリケーションの開発を行います。
一般的にはシステムを動かすためにはサーバーが必要です。そして、サーバーは常に稼働している必要があります。
しかし、AWSにはサーバーレスな各種サービスが予め用意されています。
これらを利用することで、開発者は簡単にシステムを構築することができます。また、サーバーを必要としないため、運用や保守コストを削減することができます。

AWS移行の基礎知識


では、オンプレミスからAWSへ移行するには、どのように行えばよいのでしょうか?ここでは、移行プロセスについて解説します。

(1)調査・企画立案
最初に行うのは「調査・企画立案」です。

(2)目的の明確化とゴール設定
まず、決めるのは「目的の明確化とゴール設定」です。以下の点を考慮し、ゴールを決めましょう。

□なぜAWSに移行をするのか?
□どのシステムをどこまでAWSに移行するのか?
 いつまでにAWSに移行するのか?

目的とゴールが不明確のままAWSへの移行プロジェクトが開始すると、途中で以下のような問題が発生しかねません。
何を優先し、何を捨てるべきかの判断ができない
 プロジェクトの完了時に、目的を達成できたかどうかの評価ができない

目的とゴールを設定できなければ、ゴールに至るためのプロセスも明確にすることはできません。まずはAWSへの移行の目的とゴールを設定するところから始めましょう。

(3)システムの棚卸しと移行対象の選定
次に決めるのは「AWSへの移行対象の選定」です。
財務・会計システム、経費精算システム、人事情報システム、営業支援システムなど、企業内では多くのシステムが稼働しています。 その数は中小企業でも数十、大企業となると数千のシステムが稼働しています。このため、AWSへの移行対象を選定するにあたり、既存のシステムの棚卸しを行なった方がやりやすいでしょう。

棚卸しは以下の切り口で行います。
 重要度や優先度
 稼働年数
 ランニングコスト
 減価償却期間
 利用者数など

これらの切り口を元に棚卸し実施後にAWSに移行対象とするシステムを選定します。
この時、対象システムのAWSへの移行範囲を決めましょう。「対象システムを全て移行するのか?対象システムの一部の範囲を移行するのか?」によって、移行方法や予算が変わります。
まずは利用者が少なく、比較的ビジネスへの影響が少ないシステムを対象として、PoC(Proof of Concept:概念実証)として移行することをおすすめします。
PoCを行うことで、「AWSへの移行時の注意点を把握しやすい」、「リスクを抑えながらAWSの移行や運用経験を積むことができる」というメリットがあります。
AWSでどのサービスを利用するのかを決め、AWSへの移行対象範囲を決めたら事前調査も行いましょう。

(4)月額料金の試算と予算確保
AWSへの移行対象のシステムと利用予定のサービスを決めたら、AWSの月額利用料金を試算しましょう。先にも述べた通り、AWSの料金体系は「従量課金制」です。使用量に応じて料金が変わります。
また、利用するサービスによっても料金体系が異なります。予め月額料金の試算を行うことで、予算確保も行いやすくなります。
一方、AWSへの移行対象となるオンプレミスのシステム停止に向けた準備も行う必要があります。
保守契約の解約時期など、契約内容を確認しましょう。
また、AWSでのシステム構築期間中は、既存システムとAWSのランニングコストが同時に発生します。移行期間中のAWSの利用料金など、コストを予算として確保しておきましょう。