AWSの利用環境が拡大するにつれ、コスト管理の難易度は急速に上がっています。部署や子会社ごとにAWSアカウントを分け、さらにセキュリティや予算管理の都合で複数のAWS Organizationsを運用する企業も少なくありません。
その結果、「各組織のコストを別々に確認しなければならない」「全体の支出構造を把握するのに時間がかかる」という問題が頻発していました。
こうした課題を解決するため、AWSは2025年9月に 「Billing Viewが複数Organizationsのコストデータを扱える新機能」 を発表しました。
これにより、複数の組織にまたがるAWS利用状況を、1つのアカウントからまとめて把握・分析できるようになります。
■目次
- Billing Viewとは?
- これまでの課題:組織を跨いだコストが“見えなかった”
- 新機能の概要:Custom Billing Viewで“組織横断管理”を実現
- 導入手順
- 導入メリット:小さな改善が生む大きな効果
- 注意点と留意事項
まとめ: コスト可視化が“組織の壁”を超える
1.Billing Viewとは?
Billing Viewとは、AWSの「Billing and Cost Management」内にあるコスト管理機能です。AWSの請求・コスト情報を整理して“見える化”をしてくれます。
どのサービスにいくら使っているのか、どのアカウントが費用を押し上げているのか――その全体像を、グラフやレポート形式で俯瞰できるようにするのが役割です。
2.これまでの課題:組織を跨いだコストが“見えなかった”
AWSではこれまで、1つのOrganizationsの中であれば「統合請求(Consolidated Billing)」機能を使ってコストを集約管理できました。
しかし、複数のOrganizationsを運用している場合、そのコストデータを横断的に分析する方法は存在しませんでした。
そのため、複数事業部や子会社を抱える企業では、各組織から請求データをエクスポートし、Excelで突き合わせて集計するという手作業が発生。
FinOpsチームや経理担当者にとって、月次レポートの作成は時間と手間のかかる作業になっていました。
3.新機能の概要:Custom Billing Viewで“組織横断管理”を実現

今回リリースされた新機能では、「Custom Billing View(カスタム・ビリングビュー)」を作成して、複数のOrganizationsにまたがるコストデータを1つのAWSアカウントから管理できるようになりました。
この機能を使うと、次のようなことが可能になります。
1.複数のOrganizationsにまたがるコストデータを統合的に閲覧
2.Custom Billing Viewを他のAWSアカウント(組織外を含む)と共有可能
3.複数のBilling Viewを組み合わせて新しい統合ビューを作成
4.Cost ExplorerやAWS Budgetsから、その統合ビューを利用して分析・予算管理を実施
つまり、自分で柔軟にBilling Viewを作り、共有し、組織を超えてFinOpsを行える仕組みです。
これにより、グループ企業や子会社など、複数の組織でAWSを利用している場合でも、ひとつの画面で全体を俯瞰できるようになります。
Billing ViewはAWS Billing and Cost Managementコンソールの「Cost Management Preferences」から設定できます。
4.導入手順
①コンソールで Cost Management Preferences を開く
検索バーで「Billing and Cost Management」を選択

左メニューから Cost Management Preferences をクリック(「請求ビューを選択」が表示されていればOK)

②Billing Viewタブを開いて「Create view」を選択
ページ中段にある Billing View セクションで「Create view(請求ビューを作成)」をクリック

新しいカスタムビュー作成画面が開く

対象Organizationsを選択して保存
どのOrganizations/アカウントのコストデータを含めるかを指定

必要に応じて共有先アカウントを追加。請求ビューに作成した名前があれば成功です。

作成したBilling Viewは、Cost ExplorerやAWS Budgetsからすぐに参照できます。
これにより、複数組織にまたがるコストを一つのダッシュボードでモニタリングできるようになります。

5.導入メリット:小さな改善が生む大きな効果
経理・管理部門の作業を大幅に削減
これまでExcelで手動集計していた作業が、カスタムビューを共有するだけで完結。FinOpsチームが組織を跨いだレポートを自動生成できるため、月次処理が劇的に効率化します。
全社コストの“俯瞰”が可能に
「IT部門に依頼しないとグラフが作れない」という従来の状況から脱却し、非エンジニアでも自分で分析に触れられる環境が整います。
コラボレーションが容易に
CSV出力や外部連携ツールのメンテナンスといった間接作業が不要になり、担当者は本来注力すべき業務に時間を割けるようになります。
6.注意点と留意事項
Billing Viewの新機能は便利なツールですが、いくつかの点に注意が必要です。
- アクセス制御の設計が重要:共有先のアカウントには明示的な権限設定が必要。誤設定すると機密データが閲覧されるリスクがある。
- 既存の統合請求とは異なる仕組み:Consolidated Billingの上位互換ではなく、あくまで分析・可視化のためのビュー機能。
- 設定と運用ルールの整備が必要:どのBilling Viewを誰が作成・共有するか、社内ポリシーの明確化が望ましい。
- 特定のリージョンでは利用不可: AWS GovCloud(米国)リージョンと中国リージョンでは、Billing Viewの機能は利用できません。
まとめ: コスト可視化が“組織の壁”を超える
いかがでしたか?
今回のアップデートにより、AWSコスト管理は「アカウント単位」から「組織横断型」へと進化しました。
Billing Viewの複数Organizations対応は、単なる請求管理の改善ではなく、企業全体のFinOps文化を支える基盤的な変化といえます。
複数の組織をまたいでAWSを使っている企業は、この機会にCustom Billing Viewを設定し、Cost ExplorerやBudgetsと組み合わせて“全社的なコスト最適化”を進めることをおすすめします。
AWSコスト削減セミナー、参加受付中!

「気づかぬムダをどう見つけ、どう減らすか?」
そんな疑問に応える、AWSコスト削減に特化した無料ウェビナーシリーズを開催中です。
次回は、S3・EBSに潜む“データ保存コスト”の見直しがテーマ。
すぐに実践できる方法から、多少の専門知識が必要な中長期の最適化施策まで、実務で役立つノウハウを30分でぎゅっとお届けします。
AWSの利用料金、もう少し最適化できるかもしれません。
AWSのコストをより効率的に管理したい方へ。
「SunnyPay」は、Root譲渡不要・AWSビジネスサポート継続・全サービス5%割引で、請求から運用まで安心してAWSを利用できる請求代行サービスです。まずは資料で仕組みをご確認ください。


