「AWSの利用料が上がっている。原因を確認して、削減案も出してほしい」
経営層や上司からこのように依頼されたものの、AWSコストの分析を体系的に行った経験がなく、まずCost Explorerを開こうとしていないでしょうか。
Cost Explorerはコストの傾向や内訳を確認するうえで有用です。しかし、調査の目的や対象範囲が曖昧なまま数字を見始めると、データを集めること自体が目的になりやすく、「結局、何を報告すればよいのか」が分からなくなります。
AWS利用料の調査で最初に行うべきことは、画面操作ではありません。依頼内容を、調査できる条件に分解することです。
この記事では、AWSコストの確認を初めて任された情シス・インフラ担当者に向けて、調査前に整理したい目的・範囲・期限・権限と、社内の関係者へ確認するポイントを解説します。
結論:最初に「依頼の定義」を1枚にまとめる
調査を始める前に、最低限、次の5項目を1枚にまとめましょう。
- 調査の目的
- 対象期間・対象アカウント
- 削減目標
- 報告期限・成果物
- 必要な権限・社内の確認先
この5項目が決まっていれば、確認するデータと関係者を絞れます。反対に、どれかが曖昧なままだと、調査範囲が際限なく広がり、限られた期限内に意思決定へつながる報告を作りにくくなります。
1. 調査の目的を「質問文」にする
「AWS利用料を確認する」という表現だけでは、調査のゴールが定まりません。依頼者が知りたいことを質問文に変えると、必要な分析が明確になります。
たとえば、次の質問は似ているようで、調べる内容が異なります。
- 前月より利用料が増えた理由を説明したい
- 今年度の予算超過を避けたい
- 削減可能な項目を洗い出したい
- 契約や支払方法を含めて見直したい
- 特定のシステムや部門の費用を確認したい
「増加原因の説明」が目的なら、比較する期間と変化したサービスを中心に確認します。「削減案の提示」が目的なら、リソースの必要性、性能への影響、今後の利用計画まで確認しなければなりません。
依頼を受けたら、まず次のように聞き返します。
今回のゴールは、増加原因の説明でしょうか。それとも、削減施策を決めるところまででしょうか。
この一言だけでも、期待される成果物のずれを減らせます。
2. 対象期間・アカウント・システムを限定する
AWS環境が複数のアカウントやプロジェクトで使われている場合、全体を一度に調べようとすると、原因の特定に時間がかかります。
最初に、次の範囲を決めます。
| 確認項目 | 決める内容の例 |
| 対象期間 | 前月比、前年同月比、直近3か月など |
| 対象アカウント | 全社、特定部門、特定プロジェクト |
| 対象環境 | 本番、開発、検証、バックアップ |
| 対象サービス | 全サービス、増加額の大きいサービス |
| 対象通貨・請求 | AWS上の利用料、実際の支払額 |
ここで重要なのは、「対象外」も決めることです。たとえば「今回は前月から増えた上位3サービスを対象とし、長期的なアーキテクチャ改善は別途検討する」と区切れば、短期間でも具体的な報告を作れます。
3. 削減目標を金額だけで決めない
上司から「10%削減してほしい」と言われても、すぐにすべてのリソースを一律で減らせるわけではありません。AWSコストには、事業成長に伴う必要な増加と、不要・過剰な支出が混在しています。
削減目標を確認するときは、金額や削減率に加えて、次の制約条件も聞きます。
- 性能や安定性を落としてよいか
- サービス停止を伴う変更が可能か
- 検証期間を確保できるか
- 今後の利用増加やリリース予定があるか
- RI・Savings Plansなどの契約を検討できるか
- 請求代行や支払方法の見直しも対象に含めるか
目標と制約を同時に把握すると、「削減額は大きいがリスクが高い施策」と「効果は小さいがすぐ実行できる施策」を分けて提示できます。
4. 報告期限と成果物を先に決める
調査の締め切りだけでなく、最終的に何を提出するのかを確認します。
代表的な成果物は次のとおりです。
- 利用料の推移と主な増加要因
- サービス・アカウント別の上位コスト
- 原因が確定した項目と、追加確認が必要な項目
- 削減候補と期待効果
- 性能・安定性・運用への影響
- 実施可否を判断してほしい項目
- 次回までの担当者と期限
経営層向けの報告では、AWSサービスの細かな仕様よりも、「何が起きたか」「いくら影響しているか」「何を決めてほしいか」が重要です。一方、技術担当者向けには、対象リソース、変更内容、検証方法などの具体性が求められます。
誰が読む資料なのかを先に決めれば、調査結果の粒度も合わせやすくなります。
5. 必要な権限と情報を確認する
調査を始めてから「必要な画面が見られない」「請求書を持っている人が分からない」と気づくと、期限を圧迫します。
事前に次の情報へアクセスできるか確認しましょう。
- AWSの請求・コスト管理情報
- Cost Explorerの閲覧権限
- 対象アカウントとOrganizationsの構成
- 請求書や支払明細
- RI・Savings Plansなどの契約状況
- リソースの所有者・用途
- 今後のリリースや利用計画
権限がない場合は、無理に広い権限を取得するのではなく、必要なデータを管理者から共有してもらう方法もあります。目的と必要項目を伝えれば、社内調整も進めやすくなります。
社内の誰に何を確認するか
AWSコストの数字だけでは、リソースが必要かどうかまでは判断できません。次の関係者に役割を分けて確認します。
経理・購買担当者
- 実際の支払額
- 税や為替の扱い
- 請求代行の利用有無
- 予算と支払条件
- 契約更新の時期
AWS管理者・インフラ担当者
- アカウント構成
- 主要サービスの利用状況
- 直近の構成変更
- RI・Savings Plansの適用状況
- コスト配分の方法
システム責任者・開発担当者
- リソースの用途
- 停止・縮小の可否
- 性能や可用性の要件
- 今後の利用計画
- 検証環境や一時利用の終了予定
用途が分からないリソースを見つけても、すぐに停止してはいけません。所有者と影響範囲を確認し、「不要と判断できる根拠」をそろえてから対応します。
調査前によくある3つの失敗
失敗1:Cost Explorerの画面を眺め続ける
数字を細かく分解しても、調査目的が曖昧なら結論は出ません。まず「誰の、どの質問に答えるか」を決めます。
失敗2:削減候補を見つけた時点で成果と考える
候補を列挙しただけでは、実行できるか分かりません。所有者、影響、検証工数、承認者まで整理して初めて、意思決定に使える削減案になります。
失敗3:一人で完結しようとする
情シス担当者だけでは、支払条件や事業側の利用計画を把握できない場合があります。経理・管理者・システム責任者の確認を、調査計画に最初から組み込みましょう。
最初の60分で行うチェックリスト
調査を任されたら、次の順に進めると初動を整理しやすくなります。
- 依頼者へ、目的と期待する成果物を確認する
- 対象期間と対象アカウントを決める
- 報告期限と判断者を確認する
- 必要な権限と請求情報の所在を確認する
- 経理・AWS管理者・システム責任者へ確認依頼を出す
- 現時点で分かる事実と、未確認事項を分ける
- 調査結果をまとめるフォーマットを先に作る
セミナーでは、調査前の整理に加えて、請求書・Bills・Cost Explorerの違い、増加原因の切り分け、削減施策の優先順位、上司・経営層への報告方法まで解説します。オンライン・無料で、当日参加が難しい場合は申し込み後にアーカイブ動画を視聴できます。
まとめ
AWS利用料の確認を任されたとき、最初にCost Explorerを開く必要はありません。まず、次の5項目を整理しましょう。
- 調査の目的
- 対象期間・対象アカウント
- 削減目標と制約条件
- 報告期限・成果物
- 必要な権限・社内の確認先
この準備ができれば、確認する数字と関係者が明確になり、短い期限でも「原因の説明」と「次に取るべき行動」をまとめやすくなります。
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