AWSコストの見直しで、停止中のリソースを削除したり、インスタンスサイズを変更したりすると、短期的には利用料が下がります。しかし、翌月以降に利用量が増えたとき、「最適化は成功したのか」「事業成長による正常な増加なのか」「再び無駄が生まれたのか」を説明できないケースは少なくありません。
原因は、削減額だけを成果として見ていることにあります。AWSのコストは、利用者数、取引量、データ量、システム構成、為替など複数の要因で変動します。先月より請求額が増えたとしても、売上や処理件数がそれ以上に伸びていれば、単位当たりのコストは改善しているかもしれません。
AWSコスト最適化を継続的な活動にするには、経営・経理・技術部門が同じ数字を見ながら判断できるKPIが必要です。
本記事では、削減施策の効果を測るために共有したい6つのKPIと、月次レビューの進め方を解説します。
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AWSコスト削減額だけでは成果を測れない理由
削減額は分かりやすい指標ですが、単独で使うと判断を誤りやすくなります。たとえば、月額100万円だったAWS利用料が90万円になれば、10万円の削減です。一方で、その月にキャンペーンが終了してアクセス数が大きく減っていたなら、施策による削減とは限りません。
反対に、利用料が100万円から110万円へ増えていても、取引件数が2倍になっていれば、1件当たりのインフラコストは改善しています。事業の成長に必要な支出と、見直すべき支出を分けなければ、必要なリソースまで削減して性能や可用性を損なう恐れがあります。
そのため、AWSコストは次の3つの視点で評価することが重要です。
- 総額:予算に対して支出がどの程度か
- 効率:事業成果1単位当たりのコストがどう変化したか
- 管理状態:誰の支出か把握でき、異常や改善機会へ対応できているか
この3つをKPIへ落とし込むことで、単なる「節約」ではなく、事業に必要なAWS利用を維持しながら無駄を減らす活動へ変えられます。
KPI1:予算差異率
最初に確認したいのが、予算と実績の差です。金額差だけでなく、予算に対する割合で見ると、規模の異なる部門やシステムでも比較しやすくなります。
予算差異率 = (実績額 - 予算額) ÷ 予算額 × 100
ただし、全社の合計だけを見ても原因は分かりません。AWSアカウント、部門、プロジェクト、環境、本番・検証などの単位へ分解し、差異が大きい場所を特定します。
予算超過が発生した際は、すぐに「無駄」と判断せず、次の順番で確認します。
- 利用量や事業量が増えたか
- 新規リリースや構成変更があったか
- 一時的な処理やデータ移行があったか
- 想定外のリソースや料金が発生していないか
AWS Budgetsなどで予算とアラートを設定しておくと、月末の請求確定後ではなく、超過の兆候が出た段階で確認できます。
KPI2:実現削減額・削減率
コスト最適化施策の成果を示すには、「削減候補額」ではなく「実際に削減できた額」を追います。たとえば、停止候補のリソースを洗い出しただけでは成果ではありません。所有者へ確認し、停止・削除・サイズ変更などを実施し、その後の請求に反映されて初めて実現削減額として扱います。
比較基準は、施策前の一定期間にそろえます。季節変動が大きい場合は前月比較だけではなく、前年同月や直近3か月平均も利用します。また、RIやSavings Plansなどの料金施策は、購入額だけでなく、対象利用への適用状況も確認する必要があります。
経営層には実現削減額と投資回収、技術部門には施策別の削減実績を示すと、次の改善判断につながりやすくなります。
KPI3:事業単位当たりのAWSコスト
コスト効率を評価するうえで特に重要なのが、事業成果1単位当たりのAWSコストです。代表的な例には次があります。
- ECサイト:注文1件当たりのAWSコスト
- SaaS:契約ユーザー1人当たりのAWSコスト
- メディア:1万PV当たりのAWSコスト
- データ処理:1GBまたは1ジョブ当たりのAWSコスト
- 社内システム:利用者1人当たりのAWSコスト
このKPIを設定すると、AWS利用料が増えた場合でも、事業成長に伴う増加か、効率悪化かを切り分けられます。
ただし、単位は計測可能で、継続して取得できるものを選びます。売上との関係が遠い基盤システムに無理に売上比率を設定するより、利用者数や処理件数など、システム負荷と関係する指標を使う方が実務的です。
KPI4:コスト配賦可能率
AWS利用料の総額が分かっても、どの部門・サービス・顧客のための支出か説明できなければ、改善責任を決められません。そこで、全AWSコストのうち、所有者や用途を特定できる割合を「コスト配賦可能率」として管理します。
配賦には、AWSアカウントの分割、コスト配分タグ、AWS Cost Categoriesなどを活用できます。重要なのは、タグの数を増やすことではなく、意思決定に必要な軸をそろえることです。
最低限、次の情報を特定できる状態を目指します。
- 部門またはプロジェクト
- システム・サービス名
- 本番・検証・開発などの環境
- 費用責任者
- 終了予定日や一時利用の有無
配賦不能なコストが多いほど、不要リソースの確認に時間がかかり、部門別予算も曖昧になります。まずは主要な支出から所有者を明確にし、段階的に配賦率を高めます。
KPI5:コスト異常の検知・対応時間
AWSの支出は日々変動します。設定ミスや想定外の処理による増加を、翌月の請求書で初めて知る運用では、影響が大きくなりがちです。
そこで、次の2つの時間を計測します。
- 異常が発生してから検知するまでの時間
- 検知してから原因特定・暫定対応するまでの時間
単にアラートを増やすだけでは、通知疲れを起こします。金額や増加率だけでなく、重要なアカウント、サービス、環境に応じてしきい値を変え、通知後の担当者と確認手順を決めておきます。
技術部門は原因調査、経理部門は金額影響、事業部門は利用変化を確認するなど、役割分担まで決めると対応時間を短縮できます。
KPI6:改善施策の実行率
コスト最適化では、候補を見つけても実行されないことがよくあります。理由は、所有者不明、性能への不安、停止承認待ち、繁忙期、担当者不足などさまざまです。そのため、改善候補の件数や金額だけでなく、期限内に実行できた割合を追います。
改善施策実行率 = 完了した施策数 ÷ 期限内に対応予定だった施策数 × 100
施策は「停止」「サイズ変更」「料金プラン見直し」「データ保存方針変更」などに分類し、担当者、期限、期待効果、実施結果を記録します。実行できなかった施策も削除せず、保留理由と再確認日を残します。
このKPIにより、分析だけで終わっているのか、実際の改善につながっているのかが明確になります。
6つのKPIを部門別にどう使うか
すべての部門が同じ詳細レポートを見る必要はありません。目的に応じて粒度を変えます。
| 部門 | 主に確認するKPI | 判断の観点 |
| 経営層 | 予算差異率、事業単位コスト、実現削減額 | AWS投資が事業成果と釣り合っているか |
| 経理・管理部門 | 予算差異率、配賦可能率、請求の変動 | 予算管理や部門配賦を適切に行えるか |
| 技術部門 | 異常対応時間、施策実行率、単位コスト | 構成・運用のどこを改善すべきか |
| 事業部門 | 事業単位コスト、予算差異率 | 利用増が成果につながっているか |
共通のKPIを持ちながら、各部門が必要な粒度へ掘り下げられる状態が理想です。
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月次コストレビューの進め方
月次レビューは、数字を読み上げる会議ではなく、差異の原因と次の行動を決める場にします。次の順番で進めると整理しやすくなります。
- 予算差異と前月からの主要変化を確認する
- 事業量やリリースなど、正常な増減要因を確認する
- 配賦できない支出と異常値を確認する
- 前月の改善施策が実行されたか確認する
- 次月に実行する施策、担当者、期限を決める
- 経営・経理向けに成果とリスクを報告する
KPIは最初から完璧にそろえる必要はありません。まず予算差異、実現削減額、配賦可能率の3つから始め、事業データとの連携や異常対応時間へ広げる方法もあります。
まとめ:AWSコスト最適化を「一度の削減」で終わらせない
で終わらせない
AWSコスト削減の成果は、請求額が下がったかだけでは判断できません。事業の成長、利用量、予算、所有者、改善活動を合わせて見る必要があります。
今回紹介した6つのKPIは次のとおりです。
- 予算差異率
- 実現削減額・削減率
- 事業単位当たりのAWSコスト
- コスト配賦可能率
- コスト異常の検知・対応時間
- 改善施策の実行率
これらを経営・経理・技術部門で共有すれば、「なぜ増えたのか」「どこを改善するのか」「施策は成果につながったか」を説明しやすくなります。
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